オタクガタリズ

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ひとつの物語

あとから振り返ってみて、「楽しかったなあ」と思うことはあっても、「幸せだったなあ」としみじみ思い返すようなライブってなかなかないと思う。

ましてや、幸せを意識的に自覚するような瞬間なんてなおさらだ。

でも、2019年3月8日。あの日、僕は確かに幸せだった。

ライブも終盤、吉岡茉祐さんに「いま、幸せですか」と優しく問いかけられたとき、なにか腑に落ちるような感覚があった。今僕が手にしてる感情は「幸せ」なんだなって。

 

あと一日でも早く知ることができていれば、一日長くおんなじ時間を過ごせたのに。

そんな考えが頭をよぎってしまうほど、Wake Up, Girls!は僕にとってかけがえのない想い出になった。

ファイナルライブに添えられた副題は、「想い出のパレード」。披露された楽曲ひとつひとつが「想い出」で、演じる人観る人それぞれに、それぞれのストーリーがあることだろう。その中のあるひとつの物語を言葉にしたい。

 

 

WUGのコンセプトの一つにいわゆる「ハイパーリンク」なるものがある。多くのオタクコンテンツの声優ライブは、二次元のゲームやアニメのコンテンツをライブで演者が再現することで、観客はその出来事を追体験できるというところに妙がある、と僕は認識してるけど、WUGの場合はさらに進んで、二次元のキャラクターと三次元の声優が相互に影響を与え合ってるのが、WUGを「WUGらしく」してる一番の点だと思う。7人それぞれと同じ名前を持つ7人のキャラクターは、6年間同じ道を歩んだ分身のような存在だ。キャラクターで歌う」

WUGのライブは、そんな7人だからこそできる、いや7人にしかできないステージだった。島田真夢の「WUGはWUGである」って言葉の意味が、今なら分かる気がする。

 

ただ、WUGらしさは「ハイパーリンク」にあるだけじゃない。「僕らのフロンティア」をはじめとする他作品とのタイアップ曲もWUGの魅力の一つだ。実際に僕も「恋?で愛?で暴君です!」からWUGを知ることができたし。

アニメのような文脈がないからといって「WUGらしさ」に欠けるかというとそういうことでもなく、どれも独特の世界観を持っていて、それは7人の磨いてきた表現力だったりに裏打ちされてるのだろう。旧章作中では「誰が歌っても成立する」みたいな位置づけの曲だった「極上スマイル」も、WUGが歌うとあたたかみが違うぜ…ってなったし、多分そういうことなんだと思う。

本質は同じにしても、声優ユニットとしてWUGを見るか、WUGの中にキャラクターを見るかというところに多様性があるのもWUGの面白いところだ。

 

Beyond the Bottom」という楽曲がある。

アニメ旧章の終盤、「私たちじゃなきゃダメって曲が歌いたい」という決意のもとで作られ、この曲でWUGはアイドルの祭典で優勝する。

言わば「WUGらしさ」の象徴となる位置づけの曲のはず。

吉岡茉祐さんも解散直前のインタビューで下のように語っている。

吉岡 WUGのあの雰囲気だから歌える曲っていうままにしたくて。『Beyond the Bottom』は、ほかのグループには歌ってほしくないなとずっと思っています。

www.famitsu.com

ファイナルツアーのPart.3に行ったワグナーがこの曲に関して、口を揃えて「神性が増してる」「毎回最高を更新してる」などと呟かれているのを目にして、「WUGらしさ」がさらに磨かれてるんだなあと漠然と感じていた。

ただ、さっき「はず」と付け加えたように、どうしてもこの曲に歪さを感じてしまう。歌詞の抽象度が高すぎるせいで誰から誰へのメッセージなのか、何を伝えたいのかが不明瞭なのに、そこに「WUGらしさ」という絶対性を見出せてしまうからだ。

もちろん解釈はそれぞれだけど、僕は”象徴としてのアイドルへ埋没してしまうことからの脱却”が一つの側面にあると思ってる。作詞者である辛矢凡先生は「書きすぎた」楽曲と漏らしてたけど。(https://lineblog.me/yamamotoyutaka/archives/10020265.html)

それでも、WUGにしかできない表現だなとSSAで観て思った。不思議な感覚。

 

WUGには白色のサイリウムを振る曲が2つある。「ゆき模様 恋のもよう」も含めれば3つか。

ひとつは、さっき挙げた「Beyond the Bottom」。アニメでは、この曲が流れると会場が白く染まっていった。

そしてもうひとつは「Polaris」。アニメ新章最終話の挿入歌で、作詞をメンバー7人が担当しているというのが同じく白を基調としているBtBと対照的で面白い。

でもどうして「白」なのか。BtBにおいては「純粋」「無垢」といったイメージから神性を連想させる。ならPolarisは?

Polaris、すなわち北極星は、肉眼で観測できる最も天の北極に近くて明るい星のことをいう。厳密には歳差運動で少しずつ動いてるらしいけど、少なくとも僕らが生きてる間はずっと同じところで輝いている。青白く輝いてるから白!っていうのはあるかもだけど。

それでも、7人の、キャラを含めると14人の気持ちが込められた曲だから7色でもいいのに、とも思ってた。WUGグリーンってイメージではないにせよ。

こじつけもこじつけになってしまうけど、SSAの一連のライティング演出で気づいたことがあって。

サイリウムの白色は、光源色の白。

白色光は、プリズムを通せば虹色に、あらゆる波長の色に分けられる。そう考えると、白色は7つの色全てを含んでるとも無理くり言えないこともない。

ただ7つの色すべてで照らしても、それらが吸収されてしまったらそれは色を持たない。反射することではじめて白く見えるっていうのが、WUGとワグナーの関係を表してるようでエモくなってしまった。エモって言葉なるべく使わないように意識してたけど無理だった…。

アニメ新章の最終回はこう結ばれている。

何度転んでも、もう諦めない。迷わない。みんなと一緒なら、きっと、明るい方へ歩いていけるから。

誰かを幸せにするということ。それには、3つのタイプがあると思う。まず、世の中の多くの人を幸せにできる人。自分の周りの身近な人を幸せにできる人。それと、自分を幸せにできる人。でも、今ならわかる。誰かを幸せにするってことは、結局は、自分が幸せになるってことなんだと思う。

吉岡茉祐さんは手紙でこう語った。

「最後に、私はいま人生でいちばん幸せです。」

Wake Up, Girls!は僕の中で、どこまでも美しい物語だった。

 

 ──そのくらいの話だっていい。

それでも私達はその日の7人を誰かに伝えていこう。

みんなで過ごしたその瞬間。

想い出のパレードを。